83年組のAさん PART.4

読者とAさんとの邂逅はざっとこんな話でした。

「良かったら彼女を取材してみたらどうですか」
最後に読者はAさんが働く工務店の住所と
電話番号を告げて電話を切りました。

この電話があってから私には、
ひとつのアイドルのイメージが膨らんだ。

「地元で評判の美少女が東京に出て行き、
アイドルとしてデビュー。
数年後に夢敗れて帰郷。
今はどこかで普通の人として生きている」

「お宝ガールズ」で、
「売れているアイドルの過去」を追いながら、
「売れなかったアイドルの現在」を追った本
を作りたくなったのである。

そこで出したのが
「あの人に逢いたい ~まぼろしのアイドル~」
(00年4月発売)という書籍です。

この本は全く売れなかったなぁ。
「売れなかったアイドルの現在」
だから当然といえば当然ですかね。

負け惜しみにように聞こえるかもしれないけど、
「売れなくてもいいや」と思って出した本です。
自分の趣味を思いっきり反映させました。

姫乃樹リカさん(88年組)に逢いに
アメリカのワシントンDCに行けたのは良かった。

スタッフライターに江戸真樹さん(86年組)
のファンクラブ会報を作っていた男がいたので
彼とは真樹ちゃんの住む南紀白浜に飛びました。

私は白田あゆみさん(87年組)が好きだったので、
当時流言していた「白田あゆみは親衛隊のメンバーと結婚した」
という噂の真相を調べたかった。

出演を許可してくれた人たちは、おおむねマイナーでしたが、
沢田玉恵さん(86年組)をはじめ、引退後の消息が本当に謎だった
アイドルたちの現在の姿と肉声を伝えたことで
それなりの反響はありました。

ただし、サブカルライターの吉田豪氏にスコラ誌で
「出ているのは大したアイドルではない。
インタビューの突っ込みが甘い」
というような評価を受けました。

吉田氏は当時仲の良かった同僚が作っていた
雑誌「バースト」ほか、会社の雑誌で連載を
何本か持っていたので「そりゃねーだろ」と思いました。
スコラの編集者から紹介記事を書くから
元アイドルの写真を貸して欲しいという
オファーを断ったせいもあるのかも。

「突っ込みが甘い」
まあ、確かにその通りでした。

「消息不明のアイドルを探し出し、本人を再びメディアに出す」
ことが最大の使命だったため、
アイドルを廃業した理由を鋭く切り込むつもりは全くありません。
本人の発言を無批判にそのまま載せています。

彼女たちは芸能界の敗者でしょう。
この書籍では敗者に鞭打ちたくなかったのです。
それに「大したアイドル」かどうかなんて
現役時代の実績とは関係ない。

それはアイドルに限らず、
小説、映画、音楽、芝居....あらゆるジャンルに言える。
発表直後は反響もなく、後に再評価される作品も多い。

いやいや、再評価どころか
未だに駄作とコキ下ろされる作品にだって
自分に刺さる部分があれば、
それを生み出した人間に対する興味は湧く。

作家の西村賢太氏が芥川賞を獲った際に
「なんでこの人は藤澤清造になんかにこだわってるの?」
ということを言っていた選考委員がいたらしい。

それは文学界からとっくに忘れ去られていた
大正時代の小説家と西村氏の人生が交錯したから、
としか言いようがない。

「あの人は今⁉」のようなバラエティ番組に
嬉々として出てくるような「元アイドル」とも違う、

自分の中に棘のように刺さっていたアイドルが、
その後どうなったのか知りたかったのである。

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